現在皆既月食中。
アートドキュメントは明日が最終日。
本とかたち展は今日が初日。江古田のギャラリー水土木です。
福島世津子さんと私のユニット作品『10万年の始まり』はマッケンジー邸で展示中。、往復書簡のインスタレーションです。

これは最後の手紙
久子様
度々、遠く海の向こうに住むあなたに見せたいとおもう場面があります。
それは景色だったり、物だったり、味だったりと色々ですが、今日は霧です。
あなたの住んでいる辺りでは霧景色を見ることは滅多に無いと言っていましたね?
ここでは冬にさしかかるとよく霧が出ることがあります。
朝起きて霧が景色を半分隠しているのを見るとどきどきしながらカメラを抱えて飛び出します。
霧は見慣れた景色を見知らぬ景色に変えてしまう魔法を持っています。
見えなくなっている向こうに想像の余地がぐんぐん広がってゆき、別世界へ導いてくれるかもしれない期待があるのです。
その期待をあなたと共有してみたい。そんな風に思いながらこの写真を送ります。
霧で途切れた道の向こう側に何が見えましたか?
世津子
世津子様
暖かい暖かいとお伝えして来たこちらの気候ですが、冬の足音が急に聞こえ始めたこのごろです。お変わりありませんか?
そちらは本格的な冬が始まっているのでしょうか。
夏の終わりから始まったあなたとのこの往復書簡、さまざまなことを伝え合いプレゼントし合い、それは楽しいやりとりでした。
思えば、3月のあの日から、世界は一変してしまいました。ドイツに住むあなたは、日本の私たち以上に心を痛め、遠い空からたくさんのことを伝えてくれました。そうした中での手紙のやり取りであったことをもう一度記しておきたく思います。
放射性元素の半減期が10万年であるという事実は、もう私たちの日常から消し去る事は出来なくなりました。お互いの日常を静かに伝え合うという変哲ない行為が、いかに得難く尊いものかを、おりにふれて思うこのごろです。
あなたとふたりで、私の好きな佐鳴湖のほとりのベンチで語り合っているような、そんな思いで手紙を綴っておりましたこと、お伝えしておきますね。
そして、この往復書簡、もう少し続けましょう。
よろしくお願いします。 久子