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『マティス・知られざる生涯』ヒラリー・スパーリング著野中邦子訳(白水社/2012)を読了しました。全459ページ上下段の大著でしたが、ノンストップで読み切れる面白さでした。
ひとりの画家の生涯をこれほどつぶさに知ったのは、パウル・クレー以来かもしれません。それほど細かく、マティスの全生涯が描かれていて、副題の通りそれは知られざる事実に溢れていました。 マティスと言えばフォービズムの巨匠、晩年は美しい切り絵とステンドグラスで知られる洒脱な色彩の人、いつも若く美しいモデルに囲まれていた裕福な画家、という思い込みがずっとありましたが、実はその生涯は壮絶で、画家としては求道僧のようなストイックな暮らしを重ねてきた人だったのでした。 フランス北部の織物工場の長男として生まれたマティスは、家業を継がずに画家を志しますが、アカデミーの受験に5回不合格、パリで、私塾に入れてもいいと言ってくれたのはモローひとりだけというスタート、父との相克は父親が死ぬまで続き、家業を継がなかったマティスに対して彼の故郷は生涯彼を受け入れる事はしなかったようです。 そうしてすべてを捨てて賭した画業ですが、初期作品を見ると、マティスの作品に『洗練』も『センス』も『眼と手の技量』もないように感じます。ピカソには最初からそのすべてがあったのに、マティスにはなかったんだと思います。 でも人生の最後では(途中からといってもいいかもしれませんが)、はるかにピカソを上回る、洗練され、軽やかでそして崇高な作品を残しているように思われます。 何がマティスをそのように成長させたのか、そのことがこの本に克明に書かれていたのでした。 修業時代のマティスはセザンヌの『水浴図』を大枚はたいて購入し、それを40年間所有し常にセザンヌから学んでいたとあります。セザンヌの作品一枚が年収の半分の値段だったそうです。 マティスがセザンヌから学んだもの、それはピカソがセザンヌから吸収した造形上の文法(視点の移動とそれに連なるキュビスム理論)などでは全くなく、セザンヌ自身が追求していた絵画本来の課題、すなわちプッサンから脈々と続くフランス絵画の本道のものがたりであったのではないかと私は思います。マティスは(そしてたぶんセザンヌも)絵画を、三次元のイリュージョンとしての二次元表現から脱却させようとなどしてはいなくて、ただ、絵画そのものを追求して行ったらあの表現に至ったのではと、そんな風に思いました。マティスは絵画に革命を起こそうなんて思ってなどいなくて、ただただ純粋に絵を描き続けていた、そういう感じです。 家族との濃密な関係も詳しく書かれていました。 制作を最優先におくことで家族には犠牲を強いておきながら常に家族の心配をし家族に長い手紙を書くマティス。家族のために費やすその労力は膨大でありながら同時に家庭を踏みにじる、そのアンバランスがもたらす極限の精神状態の時に、それをみじんも感じさせない、素晴らしく清らかな作品を生み出していることに驚愕します。そしてながく夫を支えた妻はマティス自身のためというよりもむしろマティスの芸術のために生きる事が悦びであったようです。この妻が若い日のマティスを育てたのだとおもいました。 マティスとモデルとの関係も予想外でした。つねに傍らには若く美しいモデルを必要としたマティス。モデルがいないと制作が出来ないマティスでしたが(特に晩年のマティスを支えたロシア人の才媛リディアの献身は圧倒的)この伝記を読んで初めて私はマティスはモデルたちと男女の関係をもたなかった事を知りました。ピカソが恋人や妻を次々と取り替えて新しい様式を生み出して行ったように、マティスもまた、巨匠たちの例に漏れず恋愛を創作のエネルギーにしていたのではと思い込んでいたのでしたが、マティスのモデルたちは芸術家にとって完璧に純粋な意味でのミューズだったようです。 もしかしたら、モデルたちを純粋にミューズとして扱えたからこそ、作品にあの洗練がもたらされたのかもしれません。マティスの才能は、そういうところにあったのでしょう。俗人にはない求道僧のようなストイシズムともいえる部分に。 自信はなくても明日も地道に制作を続けていこうという勇気をもらえた本でした。
by hisakoinui
| 2013-02-20 22:18
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