上橋菜穂子 守り人シリーズ全10冊を読了しました。
最後の3巻 天と地の守り人 一部二部三部は、チャグム皇子がいかにして新ヨゴ国を救ってゆくかという、壮大な大河ドラマとも言え、3巻使わなければ描けないほどの大きな物語りでした。面白かったです、とても。
10冊を通して本当に面白く読みました。物語りの舞台はどこかケルトの雰囲気が感じられたり、いやここは長野県の真ん中あたりの森の中ではと思ったり、チャグムが飛び込んだ大海はどこの海だろう、インドシナの感じだ、など、勝手に世界中を旅してもいました。
それから、上橋さんが創ったナユグという異界、そことの行き来が描かれている場面では、からだがふわっと浮くような感覚がありました。
ナユグは、仏教の彼岸の世界のようでもありましたが、宗教を越えてもっと土着的ななにかのようで、だからナルニア国物語りで描かれていた、タンスの扉の向こう側というものとも違い、構造としてはむしろグリムの「ホレおばさん」のあの井戸の底の世界なのかなあなど、いろいろ思いました。
文化人類学者でもある上橋さんだからこそ生み出せたコンセプトなのでしょう。
ところで、10巻目も残り30ページとなった時、私は、読み終わるのがもったいなくなってしまいました。
結末はわかっているのです、想像がつくのです。最後の2行でどんでんがえしといった、あざとく意地悪なことは絶対にない、それは読み続けて来たから持てた確信で、つまり、お話がハッピーエンドなことは、30ページ前でもわかりました。だからこそ、いつまでも、このファンタジーの世界に浸っていたいと思い、読み終わりたくなかったのでした。
最後まではらはらのミステリー小説もいいけれど、やはり私はこういうお話しがすきだなあと思いす。
つまり、ものがたりの世界そのものが楽しめて、否定ではなく肯定の世界観で覆われているもの。
否定が描く人の闇、そこにも人間存在の真実はあるかもしれないけれど、そしてそういう文学もたくさん読んで来たのだけれど、やはり私は肯定が好きです。否定も最後には大きな意味での肯定に繋がらなければ芸術とは言えないし、名作と言われる古典とはそういうものだったとも思います。
この守り人シリーズは、児童文学のカテゴリーから発せられた作品ということもあって、わかりやすくシンプルであたたかな肯定感で覆われていて、(それはもちろん、読者におもねった甘さでは全くなく、)そこが上橋菜穂子の世界であるのだろうと感じました。
自分はあるがままの世界を描いたに過ぎないと作者あとがきにありましたが、あるがままが肯定の世界であることはなんてすてきなのだろうと思います。
少しインターバルをおいて、次のシリーズを読んでみようと思っています。