Time Evolution 『時間発展』の内と外
『時間発展』Time Evolution は、物理学の量子力学の中にある言葉です。
ものごと、つまり粒子が、次の瞬間次の瞬間にかわっていく姿のことをそう呼んでいるそうです。
量子力学というのは確率的な分布を扱う話なので確定した未来はないらしく、過去の状況から未来に向かって、たとえば核反応でウランがトリウムに変化したり、あるいは素粒子がエネルギーになって消えてしまったりする、その変化やつながりを説明する学問であるようです。
私のドローイングを、ひとりの理系の畑の方に、この時間発展になぞらえて読み解いていただいた時、自分の中にいつもあった、あらゆることがどんどんどんどん広がってしまう制作の収まりのなさへの着地点が見えました。
乾久子のドローイングはドキュメントだ、モノを描いているのではないコトを描いているのだ、とそれだけはわかっていたけれど、ひとつひとつのコトをつなげている、そのつなげる線、あるいは日々の行為を重ねた断面が、私の内面で時間に沿って発展を遂げていく時間発展の視覚化であったのでした。
そしてもうひとつ、このごろではライフワーク化してきたくじびきドローイングワークショップもまた、時間発展であると考えています。
くじを引いて絵を描きことばを残して誰かと繋がることばと絵のリレー、くじ引きドローイングは2008年に始めたものですが、無数の、と言っていいくらいのたくさんの人に参加していただき、たくさんのスタッフや企画者に支えられ、続けてきました。それぞれの地で残されたくじのことばは次の地でのワークショップにつながり新たな発展をしていく、まさに時間発展です。
この展覧会は、このふたつの時間発展をひとつの会場で展示する、はじめての試みです。ひとりの人間の内側と外側、べつべつにおこっていた時間発展は、どこかでクロスするのかしないのか、それを知るための展覧会であるのかもしれません。
そしてさらに、この展覧会が、沢田マンションギャラリーroom38の最終企画であることも、時間発展というコンセプトにおいて大きな意味を持つと思っています。
終わりだけれど終わらない、くじびきドローイングの時間発展に、ぜひ、ご参加いただきたく思います。
高知で残されたことばは次なる地でだれかに描かれて、沢田マンションギャラリーのものがたりは続きます。