私の授業を受けてくれている高校三年生47名たちに向けて、新企画を考えました。
毎回、授業の初めに、教科書に載っている作品一つを選んで、5分間の短いレクチャーをするというものです。
いつも美術史は三学期にまとめてやっているのですが、二時間連続の座学はやる方も聞く方も大変だし、毎回ちょっとずつだと新鮮かなと思った今年です。
高校を出れば、机を並べて絵を描くことなどもうなくて、でも、美術と縁を切らないでいてもらうには、美術の素晴らしさをずっと感じていてもらうには、見る人としての実力をつけ、楽しみ方を知ってもらうことですが、鑑賞に時間を割くことがとても難しいという時間配分の問題もあります。
というわけで、乾久子の『美術史5minutes』が連休明けから始まります。
その内容をこのブログでも紹介していこうかなと思いたちました。
というのも、ウィキ先生には頼らずに作品の解説すべて自分が感じ考えていること考えてきたこと知ってきたことを自分の言葉で生徒たちに伝えようと思っているからです。
第一回はモネの『積み藁』です。
クロードモネは 印象派の画家として知られる著名な芸術家です。印象派というのは、19世紀後半にフランスで起こった芸術運動およびそれに属する人たちのことを指します。それまでの絵画は、アトリエの中で宗教や神話をモチーフにとてもアカデミックな古い手法で描かれていましたが、彼らは筆とパレットと絵の具を持って戸外に飛び出し、同時に物が持つ固有な色彩への囚われも捨て絵画に革命をもたらしました
教科書には、この作品の他にもう一点積みわらの作品が載っていますが、モネの描いた積みわらはこの2点だけでなく、彼は半 年の間に 25 点もの積みわらを描いています。
積みわらを、モネはそんなにも描きたかったのでしょうか。積みわらは、そんなにも魅力的なモチーフでしょうか?
モネが描きたかったのは、積みわらではなく、光そのものでした。
だから、時間帯を変え , 季節を変え、天候を変えて何枚も描く。光の強さの違いを感じそのことをキャンバスに定着させる。 一枚描き終えた時、おそらくはもう光は変化していてまた次の一枚が描きたくなる。 そんな矢も盾もたまらないような思いで積みわらを連作していったのではないかと思います。 つまりモネは、他の印象派の画家たちのように、室内で描くアカデミックな絵画に飽き足らず、外にモチーフを求めたのではなく、 室内にはなく外にしかないただ一つのもの、光そのものそれ自体を描こうとしたのだと思います。
光を描く、とはどういうことなのか。
何かをそれらしく描くために光(明暗)を描く、それが絵画における光の扱いですしかしモネは積みわらを美しく描くためにどんな風に明暗をつけてかけば良いかと考えたのではなく、光自体を描くために積みわらというモチーフを必要としたのです。こう考えるとモネは印象派を超える画家だと感じます。歴史の流れからいえば、当時の革命児印象派も今ではもう古い絵画のジャンルですが、モネのこの、光自体を表現するというコンセプトは現代にあってさらに輝きを増し多くのアーティストに影響を与えています。
モネの代表作といえば『睡蓮』ですが、この連作もまた光の追求です。積みわらの比ではない大作の連続です。『睡蓮』のことも気にかけてみてください。
浜名湖ガーデンパークには、第一回浜名湖花博で作られた『モネの庭』と『モネの家』があります。ぜひ、訪れて見てください。