5分美術史 第3話は浮世絵です。歌麿を例に。
熱海で見た北斎のことを伝えたいと思ったけれど、その前に、浮世絵のことを話しておこうと思いました。
浮世絵
浮世絵とは、江戸時代に江戸を中心に発達した庶民の絵です。
肉筆画と呼ばれる一点ものもありますが、多くは木版画で量産されました。一枚の値段はとても安くてかけ蕎麦一杯と同じくらいだったそうですから、数百円というところでしょうか。
この作品は歌麿のものとして有名ですが、木を彫って版を作ったり、絵の具を調合して美しい色を出して摺ったりしたのは歌麿ではありません。歌麿は絵師であり、絵を描く人でした。彫るのは彫師、摺るのは摺師という専門職がいました。
遊女の頭の髪の毛の生え際の部分を見てください。
ものすごく細く繊細な黒い線で表現されています。
この細い線も、木を彫り残して作った線かと思うと、彫り師の技術の高さに圧倒されます。(木版画では彫り残した木の部分に絵の具が乗せられることは小学校で経験しましたね)
同様に刷り師もまた高い技術の持ち主です。
それでは歌麿はこの絵を描きたくて描いて、版画にしたいから彫ったり摺ったりを外注したのでしょうか。
歌麿もまた、絵師としてのオファーがあってこの絵を描いたのです。彼は美人画を得意とする絵師でした。
まずは版元とよばれる企画者がいて、こんな絵なら売れると考えた題材を絵師に描かせ、彫り師刷り師の高度な技術を使って作られたものが浮世絵です。
作品の左下にある「近江屋」の印が版元を表していて、今で言ったら出版社のようなもの。
右上には、扇、矢、花、扇の絵がありますが、これは描かれた女性の名前を表していて、扇屋花扇さんと絵から読むというお洒落な仕掛けがあって見る人を楽しませてくれます。
浮世絵は庶民のものですが、作品から伝わるように歌麿という絵師の芸術性は高く、大衆性(サブカルチャー)と芸術性を共存させ得た日本の美術はすごいと思います。お蕎麦一杯分のお金でこんなに素晴らしい芸術作品を身近に置くことができたなんて江戸時代は豊かでしたね。
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江戸時代の版元のひとつ『蔦屋』は今のTUTAYAだよ、と話すと、みんな目がまん丸でした。
5分で浮世絵を伝えるなんてとても出来ない話であるけれど入り口には立ってもらえたかなというところです。
前回の受胎告知は、やはり女子が熱心に聞いてくれました。