エントランス作品のこと 続き
このグランシップ館内での大規模展示のお話をいただいた時、一番考えたのがエントランスホールの展示のことでした。
ガラスショーウィンドウも、二階エスカレーター正面も、これまでの自分の蓄積でなんとかなる、やれるのではないかと思いましたが、エントランスホールはどんな作品で挑めばいいのかわかりませんでした。
私の前の展示の作家、石上和宏さんは彫刻家でいらっしゃるので、実材の強さで空間を構成されていました。
おもに平面のものしか作ってこなかった私はどうしたらいいのだろう。
タペストリーという案を企画の白井先生からいただいてそれではとその方向に舵を切ったのは昨年の秋でした。
昨年12月からのフェルケール博物館での展覧会で、新作の発表をかねてとグランシップのタペストリーのための試作を制作しました。
このオーガンジーにたどり着くまでにも様々な試作を繰り返しましたが、それも今では遠い昔のことのようです。

使いたいオーガンジー生地は、浜松、東京、横浜と探し回り、カーテン生地ではどうかしらとインテリアのお店まで回ったのに、結局、ついでに立ち寄った大阪のユザワヤで偶然出会った普通のオーガンジーに落ち着きました。試算して90メートル買いましたが、残りました。

委ねていくようなドローイングであったと思います。
生地や運針に委ねながら、直感で糸を切ってゆく作業。
糸が作る線の不思議に次々と出会ってゆく。
絡んだり垂れたりする糸たちにその時の感覚を重ねていく。
このことを、ずっとずっとやっていました。
その時間の中だけに生まれていたものがあったのではないかと今では思います。
展示という予定的な調和の中にはないもの、空間を構成するという計算の外にあった、手の営み自体。
そうしたことまでもを伝えようとするのは無理なのかもしれませんが。