5月26日
レジデンス施設かたやの朝。
綺麗で整ったキッチンで自炊できるのだが昨日スーパーで買ったおにぎりの朝ごはん。朝はきちんと食べたいけれど一人分のお味噌汁を一から作って片付けてよりも優先することがある。
ビエンナーレ期間中の自分の展示会場の大まかな展示イメージを決めて行くのが今日の仕事だ。
鈴木さんに迎えに来てもらってイサマムラへ。車が無いと自力では動けない中之条だ。
イサマムラは、廃校になった旧伊参小学校をビエンナーレの事務局と展示拠点にしている施設だ。
廃校小学校というと木造校舎のイメージだが、立派な鉄筋三階建てである。ここに通っていた子どもたちはかつてはこんなにたくさんいたのだと想像する。
それは他の展示会場となっている旧小学校も同じこと。過疎化のスピードは私たちが想像しているよりもはるかに速いと現地で実感する。だからこそ、行政ぐるみの芸術祭が立ち上がっているのだけれど。
さて私の展示会場は2階の旧図書室の片側である。
片側、というのはそれだけ図書室が立派で広いということで、なんとなくの簡易な仕切りがあるのは図書室時代にもふたつに分けての閲覧などが行われていたのではないかと思われる。
ここに展示するのは、まずふたつの小学校をつなげたくじドロの作品と中之条の街でゲリラ的に行われる予定のくじドロの作品、なのだが、芸術祭での展示であるので、そして何より場所が図書室であるので、ワークショップ成果発表スペース以外は、ことばにフォーカスしたくじドロ展示を考えてきた。
キャリーケースに詰めて運んできたいくつかのものを天井から下げたり書架に置いたり貼ったりなどを鈴木さんに時々助けてもらいながら行う。
他にはこの会場でも行うワークショップ時に使う机を運んだりいろいろなことも。
この会場設営の準備の中でいちばん驚きありがたいと感じたのは、テクニカルなことを具体的に助けてくれるスタッフがいることだった。
天井全体にネットを張り巡らすこと、書架の一部をベニヤで塞ぐこと、などの相談にのってもらえて尚且つその具体的な作業をやっていただけるのだ。
これまでの設営では、そうしたことの全てを自分でやるか、自分でやれなければ、自分が誰かに頼んで報酬を払ってやってもらうほかなかった。それが企画展であって相談に乗ってはもらえても、具体的設営はアーティストフィーの中でのこととして作家に丸ごと投げられていた。
それが今度はそうではない。
実際、天井にネットを張り巡らすのは、脚立に登っての作業となり具体的に考えてもひとりでは無理だし、誰かを頼まなければと思っていた。
テクニカル担当のスタッフである西岳さんは言ってくれた。
こうしたことは僕らがやるので作家さんはワークショップや展示をより良いものにしてください、と。
感動を持ってその言葉を聞いた。
ずっと気がかりであり続けていたカッティングマシンのあれこれも、別のスタッフさんに丁寧に教えていただき、ぱあっと霧が晴れたように視界が広がった。言葉の展示のあれこれのイメージが膨らむ。充実した準備となった。
会場で夕方前までの時間を過ごして駅まで送っていただいての帰途。
東京駅での新幹線ホームはのぞみとひかりが向かい合わせの入線で私はうっかりのぞみに乗ってしまったところ、私の座っている席に、そこは私の席ですと言う紳士が現れて、発車30秒前に間違いに気づくことができた。ほかにも空席はあったのでその人が私と同じ座席番号だったのは幸運。
最後まで良いことばかりの中之条ゆきだった。
明日からは明らかになったいくつもの宿題をひとつずつやっていく。