『あいだ』の最新号の巻頭は先日亡くなった美術史家・若桑みどりの追悼記事でした。
若桑みどりと言えばマニエリスム研究の第一人者ですが、はじめて彼女をみたのは80年代、京都大学での美術史学会で(若い日の私は研究者をめざしていたためそうしたところにも顔を出していたのです)彼女の発表はマックス・エルンストについてでした。なぜ?という思いがその時の私にはありましたが、その後の彼女の仕事を知ってみると今ではうなづけるものがあります。
ですが、やはり領域違いからか、鋭い質問を浴び、それに答えられなかった若桑みどりでした。『わかりました、もっと勉強します!!』と鼻息荒く発表の場を立った姿が強烈でした。すごい人だ、男の研究者たちと肩を並べて頑張っているだけある、と感心しこそすれ、私にはひたむきなその姿を冷笑する気にはなれませんでした。(その冷笑の雰囲気がその時感じられたのです)
追悼文を読んで初めて知ったのですが、その頃の彼女は東京芸大の先生と言っても、音楽学部のイタリア語と教養の美術を教えていただけ、美術学部の芸術学科からはほとんどシカトであったのですね。研究者の世界って本当に偏狭なんだなあとあらためて思いました。(芸大の学生にしてみれば彼女のマニエリスムの講義を受けられなかったのも損失だと思いますし。)
それから私はさまざまな事情から美術史からは遠ざかったのですが、思いがけず子育て中に彼女の美術史ではない分野での文章にふれたのでした。(つづく)